日本で一番星に近い夜/七夕デート 【富山県/立山】

 2014-07-08
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「ねぇ、立山の室堂に行かない?」
未来の大女優を目指して、とある劇団に所属しながらも、生活のためアルバイトとして便利屋集団の手伝いをしている、知人の女の子から突然メールが入りました。

「いつ?二人でってこと?」
彼女から個人的に旅行に誘われることなど、まったく想定していなかった僕が、戸惑いながらもちょっとだけ胸をときめかせて、そう返信したのが日曜日の午後2時のことでした。

「それが急なんだけど、明日からなの。おまけに残念ながらあたしは行けないのよ。全額おごりにするから、今回は一人で行ってきてほしいの」
明日から?一人で?全額おごり?今回は??
なんだかわけがわかりません。



日曜日の夕方、便利屋のオフィス代わりになっている、ある古いアパートの1室を訪れると、ベージュっぽい色をした、クマのぬいぐるみを渡されました。
テディベアみたいな有名なものではありませんが、何かのブランドのぬいぐるみのような気もします。

「この娘を連れて、立山の室堂にある、ホテル立山ってところに行ってほしいのよ」
「へっ?」
「明日の夜、この娘と一緒にそこに泊まってほしいの。あとはこの地図の印のあるところで、この娘を入れた写真を撮って来てほしいの」

信濃大町駅、トロリーバス、黒部ケーブルカー、黒部ダム、立山ロープウェイ、大観峰、室堂駅・・・そこには立山黒部アルペンルートの要所要所の地名が並んでいました。

「あと、これがこの娘のお部屋と旅行中の注意事項」
そう言って彼女はちょっと大き目のピクニックバスケットのようなものと、1枚の紙を差し出しました。



<てんじょう員さんへ>

◯名前:Berry(べりー)
◯せい別・年れい:女の子、3さい。
◯性かく:おっとりしていてやさしいけど、さびしがり屋。暗いところにひとりは特にこわがる。
◯のり物よい:バスがちょっとにがて、あとは大じょうぶ。高いところがちょっとこわいので、ロープウェイはまどに近すぎないところが好き。
◯食べ物:好ききらいはあまりない。しいたけがちょっとにがてだけど、がんばって食べさせて。
◯しゅみ:星空かんしょう。空気のきれいな高原でのスターウォッチングが大好き



文字面からすると、小学校3、4年生くらいの女の子でしょうか。
何色かのサインペンを使って、カラフルに、一生懸命書いたものであることがわかります。

「わかった、行くぜ、室堂。ホテル立山!」





7月7日、月曜日、午前7時30分。
新宿駅はどんよりとした雲の下。
山人の恰好でもなく、しかし季節外れの重装備(朝晩の立山はまだ真冬並みの寒さ)で、なおかつ大きなピクニックバスケット(にしかみえないBerryのお家)を持った僕の出で立ちは、自分でもかなり異様な感じがしました。けれども幸いなことに、月曜朝のあずさ号の乗客は座席の半分程度で、目を閉じて眠っているか、難しい顔をしてパラパラと何かの資料をめくっている出張客がほとんどで、僕に興味を示すような人間は誰もいないようでした。

午前11時。
あずさ号を信濃大町駅で降りると、あいにくの小雨模様。
こじゃれた山小屋風に改築された信濃大町駅をバックに、Berryの最初の旅写真を撮影。
せっかくの旅行なのに、こんな天気で彼女もあまり機嫌がよくないようにみえました。

信濃大町から扇沢へは路線バス、扇沢からトロリーバスで山岳トンネルを縦断し、いよいよ本格的な立山黒部アルペンルートへと突入します。
黒部ダムの観光放流をバックにBerryの写真撮影。
高いところは怖いだろうから、あんまり下まで覗き込まないように注意したりして、何だか彼女のお兄さんになった気分(お父さんではありません)です。
昼食は、黒部湖名物のダムカレーを二人で分け合って食べて、これも一応写真撮影。

黒部湖から黒部平まではケーブルカー。
黒部平から大観峰までは立山ロープウェイで、天気が良ければ最高の眺望のはずですが、今日はところどころガスがかかっています。僕も高いところは得意ではないので、きっと僕たち二人に天気が気を遣ってくれたのでしょう。

大観峰から立山トンネルトロリーバスで、標高3,015mの立山を縦貫し、長野と富山の県境を越えると、今日の目的地、室堂に到着しました。時刻は15時ちょっと前。

室堂も、やっぱりあんまり天気は良くないね、と彼女に話しかけると、
ううん、気にしなくていいよ、と彼女は答えてくれます。
山の天気は変わりやすいから、この後晴れるかもしれないし、と。



「スターウォッチング参加ご希望の方は、20:30までにフロント前にお集まりください。
ただし、天候の状況によっては中止となる場合がございます」
早めの夕食の後、フロント前の掲示板に貼られているそんな案内を見て、時間まで部屋で過ごします。
標高2450m、日本で一番高いところにあるリゾートの夜は、静かに時間が過ぎ去ります。



20時25分。
フロント前に集まりはじめた人垣の向こうに、クマのぬいぐるみを発見しました。
Berryよりも少し大きくて色黒なぬいぐるみを持った女性が、こちらに近づいてきます。
年齢は30代の前半から半ばくらいでしょうか、すらっとしていて落ち着いた感じに見えるので、実年齢はもう少し若いのかもしれません。

「Berryちゃんですね?」
彼女はとても自然に微笑みながら、そう問いかけてきたのでした。

彼(ぬいぐるみ)の名はBrown(ブラウン)といい、4歳だそうです。
持ち主は、石川県の、小学校4年生の男の子。
Brownの添乗員役である女性は、金沢の小児病棟の看護師さんでした。

「じゃあ、Berryの持ち主の女の子も同じように・・・」
と僕が尋ねると、彼女は静かに微笑んだままゆっくりと頷きました。
小児病棟の子供たちを繋ぐTV電話のような仕組みがあり、そこでBrownの持ち主の男の子とBerryの持ち主の女の子が知り合ったのだと言います。



「急に天気が回復して晴れてきたので、スターウォッチング、できそうです!」
突然のホテルスタッフの明るい声に導かれて、僕と彼女、そしてBerryとBrownは日本で一番星に近い広場へと飛び出しました。



「もっと身を寄せませんか?」
ビックリして彼女の横顔をうかがうと、彼女がBrownをゆっくりこちらに寄せてくるのが見えました。
僕はBerryの右肩を、Brownの左肩のちょっと下にそっと寄り添わせました。

「でも結構おませですよね」
そう言って彼女は楽しそうにくすくすと笑いました。
七夕の夜に、日本で一番星に近い場所で、自分たちの分身に、1年に1回の星空デートをさせるだなんて。
私たちよりずっと手が込んでるわ。

「でもいつか、彼ら本人たちがこうしてデートできるようになるのかな?」
彼女にそんな質問をしてみたものの、答えを聞くのが急に怖くなって、僕が慌てて取り消そうとする前に、彼女はこう言いました。
「そのために、私もあなたも、こうしてここに来ているんだと思うんです」
そして、きっと二人とも大丈夫よ、とそっと付け加えました。



「記念写真を撮りましょう」
彼女がそういったので、BerryとBrownを屋上の椅子に並んで座らせました。
すっかり雲が切れた空では、天の川から次々とこぼれ落ちてくる何億個という星が、光っては消え、光っては消えを繰り返しながら、二人を祝福しているかのように見えました。

じっと目を凝らすと、BerryとBrownの横に、少女と少年が座っているように見えました。

来年は、そうなったらいいね。
いつの間にか、僕の隣りで日本一の七夕空を見上げていた彼女が、そういいました。



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