青春18 五島列島への旅 13  天主堂のひと 【長崎県・上五島】

 2014-08-01
青春18 五島列島への旅シリーズ (最初から読みたい方は、こちらから)
 
1 【出発前】 出発前
2 【岐阜県・美濃赤坂】 なんとなく、美濃赤坂 
3 【滋賀県・守山市】 浮気町
4 【京都府・亀岡市】 H商店街 
5 【京都府・南丹市】 美山かやぶきの里 
6 【京都府・宮津市他】 北近畿タンゴ鉄道 
7 【京都府・伊根町】 伊根の舟屋
8 【兵庫県・浜坂町】 鉄子の部屋
9 【島根県ほか】 山陰素通り編
10【福岡県・秋月】 名前に魅かれて、秋月へ。
11【長崎県・上五島】 ようやく五島上陸
12【長崎県・上五島】 頭ヶ島天主堂



①東京🚝(東海道線)🚝大垣🚝美濃赤坂🚝守山🚝新大阪(泊)
②新大阪🚝京都🚝亀岡🚝園部🚍美山🚍園部🚝福知山(泊)
③福知山🚝(北近畿タンゴ鉄道)🚝宮津🚍伊根🚍網野🚝豊岡🚝浜坂🚝鳥取🚝出雲市(泊)
④出雲市🚝米子🚝新見🚝備後落合🚝三次🚝広島🚝小倉(泊)
⑤小倉🚝甘木🚍秋月🚍甘木🚝博多港🚢(船中泊)
6日目 青方港🚍曽根教会🚍青砂ヶ浦天主堂🚍頭ヶ島天主堂🚍有川🚍奈良尾港🚢福江港(泊)
⑦バイクで福江島一周🚢長崎🚍(夜行バス車中泊)
⑧阿部野橋🚝和歌山🚝(和歌山電鐵)🚝貴志🚝和歌山🚝白浜🚝紀伊田辺(泊)
⑨紀伊田辺🚝湯浅🚝岸和田🚝大阪(泊)
⑩大阪🚝奈良🚝関🚝亀山🚝四日市🚝名古屋🚅東京



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川与助の代表作、近い将来きっと世界遺産として賑わうはずの石造りの教会、頭ケ島天主堂。

けれども、その9月の水曜日の午前11時に、そこにいるのは僕ひとりだけでした。
僕は誰もいない石段を登って、誰もいないはずの礼拝堂へと向かったのでした。


雲一つない、明るく晴れわたった空の下から急に屋内に入ったせいでしょうか、教会の中は最初、思ったより暗くひんやりと感じられました。

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だんだんと目が慣れてくると、正面の祭壇がゆっくりと明るく浮かび上がってくるようでした。

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彼女はその手前、入口から祭壇へと向かう、赤いカーペットが敷かれた身廊の上でひざまずいていました。
何かを祈っているのでしょうか、正面の十字架の方を向いたまま、動きません。

僕が慌てて踵を返そうとすると、待って、と声がしました。

「私は気にしないで、どうぞお入りください」
彼女はそう言いました。


こんな平日に、珍しいですね。
彼女はそういいながら立ち上がって身廊の脇の椅子に腰かけました。
今のバスで来られたの?

僕がそうだ、と答えるとゆっくりと頷きながら、どちらから?と聞いてきました。
東京からだ、と答えると、彼女はあらっ、という表情を見せました。

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彼女も3か月前に東京からここに移り住んできたのだといいます。

この教会から海の方にちょっと下ったところにある小さな空家を借りたの。

開け放たれた窓から教会を通り抜ける風が、彼女の少し大きめの白いブラウスを微かに揺らせます。
年の頃は、僕より少し下ということは間違いなさそうですが、そう大きく離れているようには見えません。

ひとめでこの教会が気に入っちゃったのよ。
私も6月の良く晴れた午前中、誰もいない時にひとりでここに来たの。
それで今日みたいにここでお祈りしてたら、もうそのまま帰りたくなくなっちゃったの。

彼女はクリスチャンではありませんでした。
でも洗礼を受けたかどうか、ってことは私にとってはどうでもいいことなの、と彼女は言いました。
こうやって、ここで毎日お祈りできれば、それだけでいいの。



30分ほど前、たったひとりの乗客の僕をここまで乗せてきて、そしてまた僕以外誰も乗せずに折り返し出てゆくバスの出発時間が迫っていました。この便を逃すと、夕方の最終便までここに取り残されることになります。

彼女にはそんな僕の心の動きが透けて読めるのでしょうか、このあとどうするの、と絶妙なタイミングで問いを投げかけたあと、ゆっくりと立ち上がり、祭壇の方に歩みながらこうつぶやきました。

自分で選んだこととはいえ、こんなところにずっと一人でいると、時々人恋しくなることもあるの。

僕には彼女が人恋しい、と言ったようにも、人肌恋しい、と言ったようにも聞こえ、心の乱れはますます深まるばかりでした。

私、洗礼を受けたわけじゃないの。だから敬虔なクリスチャンとかそういうのとは全然違うの。
ちょっと前に聞いた、彼女の言葉が頭の中で何度も繰り返し響いています。



もしも心と体を二つに分けられるのなら、と僕は言いました。
どちらかをバスに載せて、どちらかをここに残すんだけど。
残念ながら僕にはそれができない。

できるわよ、私なら。
彼女は突然振り返って、僕の左胸に右手を当ててそう言いました。
そうして永い間そのまま僕の前で目を閉じていました。



嘘よ。



予想通り、バス停には誰もいない空のバスが、重い体を横たえる年老いた動物のような姿で停まっていました。

いつまでここにいるつもりなの?
ドライバーの姿が見えないので、僕はまだバスには乗りこまず、後部ドアのステップの前で彼女にそう聞きました。

もうじゅうぶん気が済んだ、っていうところまでお祈りし終わるか、
ここが世界遺産になっちゃって、人がたくさん来るようになる前までかな。
どっちが先になるか、自分でもまだわからないけど。



すいませーん、という声とともに、ドライバーが海岸のほうから駆けあがってきてバスのエンジンをかけました。

この時間に一人で来るお客さんは、たいてい折り返し便には乗らないんで、今日も誰もいないと思ったんだけどね。



その言葉にちょっと驚いて顔を横に向けると、そこにはもう彼女の姿はありませんでした。




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