眉山~阿波踊りのひと~ 【徳島県・徳島市】

 2014-06-09
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徳島は、冷たい雨。
朝の阿波おどり会館には観光客の姿が見当たらないどころか、入口まで固く閉ざされていました。

「今日から年末年始の休館なんで入られんよ。どこから来なさった?」
振り返ると、紺色のスーツを着た首の細いすらりとした女性が僕をまっすぐに見つめていました。
東京から、という僕の答えを聞くと、固かった表情が一瞬崩れ、困ったような憂いのある表情に変わったように見えました。
「せっかく遠くから来なさったのにあいにくやね。もしよかったら案内するけん…」
彼女はそう言って、どこからか持ってきた重そうな鍵の束を手に、僕をビルの階上へと導きました。

そこはロープウェイ乗り場でした。徳島市内の中心にそびえる眉山という名の妖艶で、美しい峰へとそこから登ってゆくのです。
営業時間前だから、今なら貸切にできる、と言って彼女はいくつもの電源やスイッチを入れはじめました。

扉の閉まる警戒音が、誰もいない12月の朝8時の冷たい雨の中でひときわ大きく、いつまでも鳴り響いていました。
地上の台座から放たれて空中に飛び出たとたんに、僕と彼女だけを乗せた5メートル四方の箱は、ゆっくりと体を揺らしはじめます。
彼女は、それを合図とするように踊りはじめます。

いちかけ、にかけ、さんかけて
しかけた踊りはやめやれぬ
ごかけ、ろくかけ、しちかけて
やっぱり踊りはやめられぬ
ヤットサーヤットサー
ヤットヤットヤットヤット

彼女の吐く白い息で、ロープウェイの窓がだんだんと曇り、長い指先が糸のような残像を残しながらゆっくりと舞っています。
身体が伸び上がると、ヒールを脱いだ彼女の足頚がキュッと音をたてるかのように締まります。
その躍動感は、やがて彼女の纏う紺のスーツが溶け落ちて、白地に淡い青色を染めた浴衣や、目深に被った鳥追い笠が浮き上がってくるかのようでした。

山頂まであと半分の地点、そう、上下のロープウェイがすれ違うための分岐ボイントにかかる時、車両が左右に大きく揺れました。
彼女はあっ、と小さく声をあげると左側の窓に向かって崩れるように倒れかかりました。

間一髪でした。
彼女を後ろから抱きかかえると、白くて細いうなじが目の前で妖しげな匂いを放っていました。
「揺れとるけん、もう少し、このままでいとって」
そう言って彼女は僕の方へと振り返ると、ぴったりと身を寄せました。

ロープウェイは、霧に煙った眉山の山中で大きな弧を描くようにゆっくりと揺れたまま、いつまでも止まらないように思えました。
それは踊り疲れたせいでしょうか、彼女のドクドクとのたうつような激しい鼓動を身体越しに感じながら、僕はもう一度、彼女の妖しい香りのする、白くて細いくびをじっくりと見たいな、とぼんやりと考えていました。


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