父の日のおとしもの 【岡山県・津山市】

 2015-06-21
れはもう、今から7年前のこと。
日曜日の朝、寝ぼけ眼で遅めの朝食を食べていると、玄関から娘が駆け込んできました。
「パパ、たいへん。お手紙のおとしものだよ。おうちの木の下にあったんだよ」
僕の家の塀の向こうには、小さな郵便ポストがあるので、それは昨日か一昨日あたり、何らかの不都合でポストからこぼれ落ちてしまったものなのかもしれません。

「パパ、お手紙、なんて書いてあるの?」
そう聞いてきた娘に、『速達』の印のある、きれいな色彩のハガキを読み上げながら、これは大変な手紙を拾ってしまったな、と思いました。


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お父さん。

4年前の6月の日曜日のこと、覚えてますか?
私が高校2年の修学旅行の日の朝、確か5時よりもずっと前。

あの頃、お父さんは仕事でどんなに遅く帰ってきても、私の苦手な数学の勉強をみていてくれたよね。でも私、そんなお父さんにいつも反抗してばっかりだった。
前の日もいつものように些細なことで私が怒って喧嘩になって、お父さんがわざわざ日曜日に早起きしてくれたのに、私、お父さんのことずっと無視してたよね。
あの朝も家の前まで出て、私のことずっと見送ってくれてたのに、私、大通りの角を曲がるまで一度も振り返らなかった。

ホントはね、私だって、ずっと迷ってた。
いつ振り返ろうか、いつ「行ってきま~す。バイバイ!」って言っちゃおうか、って。
そうすればこんな悲しい思いなんかすぐ消えちゃうのに、って。
でもそのときはそれができなかったの。
せっかくの父の日だったのにね。

私がこっちでひとり暮らしをはじめて、今日ははじめての父の日ですね。
あのときは言えなかったけど、今なら言えるような気がしたので手紙を書いてみました。

お父さん、あのときはごめんなさい。
そして父の日おめでとう。
いつまでも、そのままのお父さんでいてね。

では。
                                  さとこ


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「このおねえちゃんがおとうさんと仲直りするために、パパ、このお手紙届けてあげて!」
6歳の娘にも、事の重大さがわかっているようでした。

差出人は「さとこ」という名前だけ。おそらくこの近くに住んでいるはずですが、住所は書いてありません。
どのみち、この手紙は父の日に届かなければ意味がなくなってしまうでしょうから、今から差出人に戻したところでどうしようもありません。
届け先は岡山県津山市。
今から出かければ、夕方までには届けられそうです。

DSC00333.jpg


東京から3時間、岡山で新幹線からローカル線に乗り換えてさらに2時間、津山という盆地の町に到着したときはすでに夕方の4時近くになっていました。
桜で有名なお城跡のすぐそば、古い門構えの町並みが残る、旧城下町地区の一角に、そのお父さんの住む家がありました。

今日読んでもらわなければ意味がない。
そう思って僕はハガキをポストには入れずに、立派な外門の扉の隙間に挟み込み、呼び鈴を押してから、何事もなかったように再び駅の方角へと戻りはじめました。
ちゃんとお父さんが取りに出てきてくれるといいのに、と思いながら。



「すいません、これ・・・」
旧城下町の狭い2車線道路から、中心部の大通りへと曲がったところで、そう呼びかけられました。
「このハガキ、あなたが?」
大急ぎで追いかけてきたのか、白い頬を上気させて薄い朱に染めた、若い女性が肩で息をしながら立っていました。
「うん」
「どうしてあなたがこれを・・・・・?」

彼女がこのハガキの差出人でした。
「結局、昨日の夜、ここに来ちゃったんです。寂しくって3ヶ月ももたずにあっけなく初の里帰り・・・」
彼女は駅までの道を歩きながら、そういって照れくさそうに笑いました。
「なので、このハガキをお父さんに見られるのが恥ずかしくて恥ずかしくて。これを見られないように今日の郵便が来るのをずっと待ってたら、こんな不思議な形で届けられたので・・・・・」
「いい手紙だったから、せっかくここまで届けにきたのに・・・・・」
僕がそう言うと彼女は、本当にごめんなさい。ありがとう、と何度も何度も繰り返してからこう言いました。
「ちゃんと郵便受けには投函しておきます。でもホントに恥ずかしいから、私が帰る時ですけど。そうだ、私も東京まで一緒に帰っていいですか?明日からまた仕事ですし、このハガキが着いたら帰ろう、って思ってたので。。。」



1時間後に駅前で待ち合わせて、僕たちは一緒に帰ることにしました。
彼女は今年二十歳で、地元の短大を卒業して東京に就職し、4月からアパートで初めて一人暮らしをはじめたこと、まだなかなか東京での生活に慣れずに困っていること、寂しいときはお父さんを思い出してしまうこと。
夕暮れの、けだるそうな橙色の中を走る2両編成のローカル列車の中で、彼女は、やすむことなくずっとそんなことを話していたかと思うと、新幹線に乗ったとたんに、疲れたのか、天使のように静かでかぼそい寝息をたてていました。



「今日はありがとう。初めてお会いしてこんなこと言っていいのかわからないんだけど。。。よかったらアパートに寄っていってくれませんか?」
僕たちの住む街の駅を降りると、彼女は僕の左手をそっと取りました。
今日だけは、またひとりになってお父さんを思い出すと、余計に寂しくなっちゃいそうなので。

日曜日の夜、午後23:30過ぎ。

でも父の日が終わりになる前に、僕も娘にちゃんと報告をしなくちゃいけないんだよ。
「あのおねえさんとお父さんは、父の日にちゃんと仲直りできたよ」って。

父の日のおとしものがあった、家の前の郵便ポストを通り過ぎ、アパートへとひとり帰ってゆく彼女の後ろ姿を見送りながら、僕はそんな風に思っていました。


<おわり>



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