夜明駅 2018

 2018-01-04
分にはいらっしゃらないんですか?

僕が九州に向かっていることをつぶやくと、あるSNSの旅のコミュニティにいる女性からコメントがありました。僕と彼女はお互いにフォローしあっていて、オンラインでは時々話しているものの、もちろん今まで一度も面識などありませんでした。
僕がいつもホテルもとらずにその日その日の天気や気分で適当に旅をしているということを知っているので、彼女としてはほんの冗談のつもりだったのかもしれません。

いいよ、なんとか調整してみる

僕がそう答えたのでちょっとびっくりしたのでしょうか、今までまるで10年来の友達同士のようにポンポンとリズムよく弾んでいた会話がそれを機にしばらく途絶えてしまったので、社交辞令に余計な返信をしちゃったかな、と僕が思いかけていた頃でした。

12月30日か31日の昼間ならたぶん大丈夫。

彼女からそんな返信が来たので、今度は僕がビックリする番でした。
九州に行くとはいえ今回は北九州をまわるつもりで、本当は大分に行く予定はなかったのです。
でもまあどうせ僕に予定なんかあってないようなもの、僕を待っていてくれる人がいるところならどこだって行くつもりだったのですが。

でもね、と彼女はとても申し訳なさそうに言いました。(その時の彼女の文字は本当にそうみえたのです)

ひとつあやまらなくっちゃいけないことがあるの。
私の住んでるところ、大分の日田なのよ。大分よりずっと山の中。冬は気温が氷点下まで下がっちゃうような小さな盆地の街なんだけどそこまでホントに来られますか?

君が日田に住んでるのも知ってるし、もちろん日田まで行くつもりさ、と僕は言いました。
日田は今まで3回パチンコやって2勝1敗っていう相性のいい街なんだ。おまけにパチンコ屋の駐車場で5000円拾って、それを元手に大勝ちしたこともあるくらい素敵な街だよ。

僕がそうコメントすると彼女はクスクス笑って(その時の彼女の文字は本当にクスクス笑っているようにみえたのです)ありがとう、と言いました。

それに今年の夏に水害があって以来、君が毎日その復興状況をSNSにアップしている日田の様子、僕は好きなんだ。

僕は続けてこう書きかけたのですが、なんだか照れくさくなってしまってやめてしまいました。せっかくここまで続けてきたテキトーキャラを破っちゃいけないしね。



オンラインで知り合って2年とちょっとでしょうか、年の瀬も押し迫った12月30日の午後、日田のまちなかの古い喫茶店で、僕と彼女は初めてむかい合って座りました。
かつて幕府の天領として栄え、大分の小京都と呼ばれる日田には豆田町という古い町並みが残っていて、この店の2階からもその様子がうかがえました。

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ずっと昔からこうして話しているような気がして、僕は特別緊張していたわけではないのですが、彼女は少し緊張していたのか、それとももともとそういう癖なのか、終始うつむき加減で、僕たちの視線が合うことはなかなかありませんでした。
彼女の視線の先にはテーブルの上に置いた左右の白くて細い指がありました。その左手薬指がシルバーの指輪に収まっているのを見て僕はあれっ、と思いました。
彼女の話の内容や話しかた、そして童顔で僕よりずっと若いその容姿から、僕はすっかり彼女を独身だと勘違いしていたようでした。

こんな年末の時期に呼び出しちゃって悪かったかな。
僕は口にこそしませんでしたが、そんなふうに少し申し訳なく思うと同時に、こんな時に家を開けられるなんて何か別の事情でもあるのか、と変な勘ぐりをしてみたりもしました。

彼女がご主人の転勤でこの日田にやってきたのが5年前。もともとの出身は東海地方の町で、そのあとは東京や大阪にも住んでいたことがあるということでしたが、九州の、この日田はまったくゆかりのない土地なのだ、と彼女は言いました。

結婚しているわりにはいつも結構自由に旅をしてるよね。

僕が何気なくそう言うと、彼女は少し顔を赤くしてさらに視線を下げたようにみえました。

こうみえても私だってもういい大人なんだけどな。
それにそんなに自由ばっかりでもないのよ。

それでも彼女のその言葉はけっして悲観的な響きではなく、一瞬だけ視線をあげた時に見せた瞳はむしろ微笑んでいるようにも見えました。彼女のまわりでは時間はゆっくりと、正の方向に流れているようでした。この子はきっといい家庭で育ったんだろうな。僕はなんとなくそう思ったのでした。



喫茶店のテーブルの上には、この店を訪れた人たちが思い思いに言葉を記した雑記帳がありました。ほんの少しだけ会話が途切れた時、僕が間を持たせるためにパラパラとめくったその中の1ページにふと目が止まりました。

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 「気になっている人に
 この喫茶店は素敵なところだと教えてもらいました。
 君が好きな理由がわかりました。
 今度は君から誘ってくれないかな?」

こういうの、好きだなあ、彼はそのあとこの「君」とうまくいったのかな?

僕がそう言って彼女にこの詩のような、ラブレターのような一節を見せると彼女は意外なことを言ったのです。

これを書いたのは女性だと思うな。
字もすごく綺麗で女性っぽいし。
宇多田ヒカルが歌って以来、女性も男性のことを君って言うようになったんだよ。

へぇ、そんなものかな。

確かに言われてみれば、そう読めないこともありません。



日田で有名なのはこの豆田町の町並みくらいで他にはあんまり刺激的なところはないのよ。

ちょっと困ったように(もちろん本当に困っているわけではなく、それが彼女の癖なんでしょうが)僕と視線を合わせてもすぐに反らせてしまう彼女に、そんなことはないよ、と僕は言いました。

僕がこの日田に来たのには二つ理由があるんだ。
まずひとつめは君が毎日伝えてくれる、あの場所に行ってみたい。

彼女が毎日写していたのは2017年夏の豪雨水害で流出してしまい、現在も不通となっているJR久大本線の線路と橋梁の様子でした。
あの日、濁流で荒れ狂っていた花月川も、普段は日田の市内を流れる美しい川。彼女の写真からは東京ではあまり感じられない四季の移り変わりとともに、日田が少しずつ復旧していく様子をうかがい知ることができるのでした。

今日は僕が「今日の日田」を発信してもいいかな?

橋梁工事の先に対岸を望む場所に立ってそう言うと、彼女はじゃあ私も一緒に発信しちゃうね、と言って今度は本当にクスクスと笑いました。

日田に来てみたかったもうひとつの理由は、この対岸のほうにあるんだ。

僕はそう言って夜明の話をしました。


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日田から西、久留米方面に二つ目の駅に「夜明」という名前の駅があります。読み方はそのまま「よあけ」。

僕がずっと昔に読んだ本の中にこの夜明駅で一晩を過ごした人の一節がありました。
夜明駅での夜明は素晴らしかった、と。

それ以来、いつかこの駅で夜明けを迎えてみたい、と思っていた僕は、せっかくこの時期に日田に来たんだから、明後日の新年の夜明けをここで迎えるつもりだ、と言いました。

夜明なんて駅、知らなかった。
5年も住んでるから何かの機会に見たり聞いたりしたことはあるのかもしれないけど、そんなに気にしてなかったからかな。

でも、と彼女は言って、またちょっと困ったような目で、けれどもさっきまでより少しだけ長く僕に視線を合わせました。

いいですね、夜明駅。
私もそこで夜明けを迎えてみたい、と。


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大晦日の夜、日田駅前のホテルに泊まった僕は朝5時半の始発列車、いや、今はまだ久大本線が復旧していないので始発の代行バスに乗って日田の隣の光岡駅に向かいます。光岡駅から接続する列車に乗れば夜明の駅には6時ちょっと過ぎの到着となりますが、冬の九州の日の出は遅いのでこれでも十分に間に合うはずです。

1月1日、午前6時3分、夜明の駅に降り立ったのは僕ひとりでした。
あたりはまだ暗く、長いプラットホームにある何本かの電灯に照らされている「よあけ」という駅名標が青白く浮かび上がっていました。

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空が白みはじめるのはおそらく午前7時前後になることでしょう。まだ暗い中、駅のホームや外で過ごしていると1月の日田盆地の冷気が足元からじわじわと体中に侵入してくるかのようでした。
それに耐えられず、防寒のために小さな駅舎の中に逃げ込むと、そこには「夜明 旅ノート」という雑記帳がありました。

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それを暇つぶしにパラパラめくると、一番新しいページにこんな文章が書かれていました。

 「気になっている人に
 夜明の駅のことを教えてもらいました。
 君が好きだというから、さっそく来てみました。
 今度は君と、ここで夜明けを迎えたいな」



純黒のまま、ずっと変化のなかった空が次第に青みを帯びてくると、それから先、意外なほどのスピードで夜明けがやってきました
駅の東側に山があるので、日の出を見ることはできませんが、駅前に降り立つと朝の蒼色の水をたっぷりと湛えた三隈川が見え、水面には真っ赤な夜明大橋が映りこんでいました。

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ホームの端に立つと、西へ向かう線路が15度のカーブを描きながら左右2つの方向に分かれ、2本の信号機の赤が青に染まってぼんやりと霞んでいました。
一つは久大本線として三隈川に向かって左へ、もうひとつは日田彦山線として英彦山に向かって右へ。駅のホームから、これほどはっきりと左右に線路が分かれていくのを見るのは初めてでした。

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夜明駅の夜明けが素晴らしい、というのはきっとこういうことだったのでしょう。

新しい年の初めての朝が来て、夜明駅はその役割を終え、凛とした世界の中にただただ静かに佇んでいるようでした。

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そろそろ出発の時間です。
日田の町から代行バスを乗り継いでやってきた人々を乗せた上り列車がゆっくりと夜明のホームに入ってきます。きっと次に日田に来る頃には線路も復旧して、またいつもの日常が戻っていることでしょう。
そうなると彼女が伝える日田の毎日が見られなくなってしまうのかもしれないな。そう思うと少し寂しい気がしました。

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最後にもう一度、夜明駅の名前を記憶に焼き付けていこう。そう思って「よあけ」という駅名標を振り返りながら列車に乗り込もうと思ったその瞬間、たった二両のディーゼルカーから飛び出してきた何かが僕にぶつかって、そのまま僕を夜明の世界に引き戻すように二歩、三歩とホームに押し戻したのでした。

新しい年の夜明けに間に合わなくてゴメンね。
でもまた来年の夜明けまで待つのは辛いから、明日の夜明けまで一緒に過ごしてもいいかな。

僕を見上げる彼女の視線との距離は、ほんの10センチほどしかありませんでしたが、今日は去年までとはちょっと違って、列車が大きく左にカーブを切って見えなくなってもいつまでも僕の目の前から離れることはありませんでした。

<了>




<2018年1月1日 訪問>



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なごり雪 【大分】

 2015-09-17
の美女、というイメージのわりには、彼女は薄く壊れやすいガラスの幕のような、透明なベールをまとっているように見えました。
いや、そもそも謎の美女というのは僕が勝手に思い込んでいただけで、別に彼女が自分で謎の女だと言ったわけではありませんでした。
ただそれまでの彼女の言動や、少しだけうかがい知れていた風貌から、僕は彼女のことを美しいけれど、クールでちょっと影のある、謎めいた大人の女性だと思っていたのでした。

実際に目の前にしてみると、彼女はほのかに甘い香りの漂う、色の白い女性でした。
それなりにいろいろな経験を重ねた年齢であることはあらかじめ知っていましたし、実際にそうではあるのでしょうが、彼女にはどこか無垢な初々しさがあったのでした。
そう、それは高校時代に、当時の彼女が初めて口紅を塗ってデートに現れた時のことを僕に思いださせてくれました。



「あいにくの雨になっちゃってごめんなさい」
大分駅前で、僕が助手席に乗り込むと彼女は言いました。
「私、雨女なのよ」
そう言って彼女はかすかに指先を震わせて、カーナビを操作し始めました。



大分県にある、トトロのバス停と宇佐のマチュピチュ。
僕が今回の九州の旅で行こうと思っていたところをWebの旅行サイトで書きこむと、突然、謎の女性からメッセージが届いたのでした。

「車がなければ1日でその2つを回るのは相当大変だと思います。そもそもどちらも公共交通機関でそうそう簡単に行けるところではありません」

メッセージの主は、大分に住む女性のようでした。
彼女は時々、僕が書く旅の日記を見ていたのだそうです。
そして何度目かのやり取りのあと、彼女は僕にこう言ったのです。

「もしよろしければ私が車でご案内しましょう。ちょうどその日は夏季休暇を取っています」




正直なところ、まともな旅行者ならあまり行かないようなB級スポットに付き合ってもらうのは申し訳ないし、また、多少は苦労してでもそうした辺鄙な場所に自分の足で行くのが旅の醍醐味だと思っていることもあり、僕はその好意を受けるかどうか、最初は悩んだのでした。
それでも僕が最終的にその提案を受け入れたのは、その謎めいた女性に興味が湧いたからでした。



「トトロもマチュピチュも、私の思い出の場所だったのよ」
彼女はせわしなく動くワイパーの向こう側をまっすぐに見つめながらそう言いました。
「小学校の教員になって初めての赴任地が宇目町(今は佐伯市)という場所。近くに轟(ととろ)という集落があってそこがトトロのバス停のあるところ。その次の赴任地が院内町(今は宇佐市)の西椎屋。あのマチュピチュみたいな山の下にある小学校」
あなたが行きたいと言っていたトトロもマチュピチュも、全部私の仕事場だったのよ、と。



彼女は東京の音大を出たあと、生まれ故郷である大分に戻って教員になったのでした。

「本当は東京でピアノを続けたかったんだけど、いろいろあって結局は大分に帰って来ちゃったのよ」
彼女はそう言って遠くを見つめたまま、少しだけ口角を上げました。それは彼女がちょっと困ったときに見せる照れ隠しの笑顔なのかもしれません。

「最初は赴任地の名前を聞いてもどこだか全く分からなくって、調べてみたら児童が30人しかいない山の中の学校だったの。当時はジブリのアニメもまだそんなに有名じゃなかったので、轟(ととろ)なんて変な名前だし、目の前が真っ暗。でもね、行ってみたらすごく楽しかった。その次の宇佐のマチュピチュの小学校も同じ。それぞれ3年づついたんだけど、どっちも離れるのが辛かったくらい」

「それで僕を案内してくれることに?」


「そう、どっちもずいぶん長い間行っていなかったので、急に懐かしくなっちゃったの。
それに、こんな場所に両方行きたいだなんて言ってる人、どんな人だろうって」




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トトロのバス停は、もともとあった場所から移されてしまったようで、彼女はしばらく迷っていました。どうやらトトロを通る大分バスの路線が廃止され、地域のコミュニティバスが走ることになったのをきっかけにバス停の場所も移設したようでした。
大分バス時代のバス停表札や木造の待合所はそのまま残され、(おそらくどこかのファンが描いた)ジブリのアニメを模した看板が飾られているので、トトロのバス停は静かな集落の中では少し華やいでいるように見えましたが、厚い雨雲の下、人影はどこにも見当たりませんでした。

彼女の最初の赴任地だった小学校は、今はもう廃校になっているようでした。
彼女は朽ちかけた校舎の周りを遠巻きに歩きながら、しばらくの間何かを探しているようでした。
「この学校はね、卒業式のあと、子どもたちが毎年『なごり雪』を唄うのよ」

「なごり雪」は、イルカのヒット曲として知られていますが、彼女によるとこの歌は、ここからほど近い、大分の津久見出身の伊勢正三が作った歌なのだそうです。

彼女は毎年、卒業式の日にピアノでその伴奏をしていたのですが、彼女自身の卒業式の日-それは彼女が学校に赴任してから3年後、彼女の異動が決まり、宇目の町を去っていくとき-重岡駅という1日に6本しか列車の来ないこの町の小さな駅で、在校生だけでなく、今までの卒業生たちがみんなでなごり雪を唄って見送ってくれたのだそうです。

「嘘みたいな話だけど、その時、本当に季節外れの雪が降ってきたのよ」

古い列車がギシギシと車輪の音を立てて動き始めても、子どもたちの透き通るような歌声はずっとずっと、そう、それは今でも耳に残っているのだ、と彼女は言いました。

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トトロのバス停から宇佐のマチュピチュまでは、縦に長い大分の南端から北端への移動となります。
いつの間にか雨は上がり、阿蘇や九重の山々の空も、やや明るくなりつつありました。

「晴れ男と一緒でよかったわ」
遠くを見つめたままの姿は変わりませんでしたが、今度はさっきよりちょっと口角を上げて彼女が言いました。
「次に行く小学校は、雨だと大変なのよ。特にこんな格好だと」

アクセルとブレーキに軽く添えた彼女の金色のハイヒールからは、白くて瑞々しい足がまっすぐに伸び、膝上10cmのあたりから薄い涼しげな白のスカートの中に吸い込まれていました。
彼女がまっすぐ前を見続けていることを理由に、ずっとその夏の白色を見ていたかったのですが、なんだかそれはよくないことのような気がして、僕はまた高校生のようにドキドキしていたのでした。




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宇佐のマチュピチュに着く頃には、時折青空が眺められるほどに天気が回復していました。
彼女の2つ目の小学校に行くには、展望所の駐車場に車を止めて、村の集落に続く長い下り坂を歩かなければなりませんでした。
時々彼女は僕の肘につかまりながらも、その急な坂を夏の白い装いで下り終えると、さっきと同じように廃校になった校舎の周りを歩きながら何かを探しているようでした。

ピアノが残っていれば、と彼女は言いました。
なごり雪をもう一回弾いてみたかったんだけど。

朽ちかけた校舎はかろうじて残っているものの、周りには背の高い雑草が生え、中を覗くのさえ大変なだけでなく、教室の中に何か彼女の記憶とつながっているものがあるようには思えませんでした。

なごり雪を唄っちゃだめ、ってことなのかな。
口角をさらに上げ、そして今度はまっすぐ僕のほうを見て、彼女はちょっとはしゃいだようにそう言いました。



予定よりずいぶん早く2つの場所をまわり終えてしまった僕たちは、大分駅へと向かっていました。
どうやら、僕たちのなごり雪の時間も近づいてきているようでした。

「まだ時間も早いので、もうひとつ案内したいんだけど、いい?」
沈黙を破るように彼女はそう言って、目の前に由布岳を望むICで高速道を降りました。

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彼女が連れて行ってくれたのは、高原のリゾートにある三角屋根の美しい小学校でした。
駐車場に車を停めると、彼女はまっすぐ別棟の校舎に向かい、小さな音楽室へと僕を招き入れました。

ホントは関係者以外誰も入れちゃいけないんだけど、今日は誰も来ないと思うから、と言って彼女はピアノの前に座りました。

なごり雪、どっちが唄おうか?
鍵盤にその白い指をかけたところで、彼女が突然そう言いました。

なごり雪を唄うのは、まだちょっと早いんじゃないかな。
僕が思わずそう口にすると、私もそう思ってたの、と言って彼女は静かに微笑みました。



彼女の弾く、歌のない『なごり雪』が響き渡る小さな音楽室の窓からは、雨上りの透明な午後3時の光を受けて、由布岳がこれ以上ないくらい緑に輝いているのが見えました。
彼女の白いスカートがひらひらと舞うと、どこからか夏の終わりの香りがしました。

僕はその音や光や匂いの詰まった柔らかなクッションの上に横たわって、この時間と空間がずっと続くといいな、と思っていました。

                                         
<おわり>



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