さくら/二十間道路 【北海道・静内】

 2015-04-27

っぱり咲いてなかったね。
桜前坂を登り切って、二十間道路と呼ばれる桜並木が目の前に現れると彼女はポツリとそう言いました。

ずっと先のほうに見える日高山脈に向かって、まっすぐに伸びる道路脇に植えられた三千本の桜の樹々には、何千万、何億というつぼみがあるはずでしたが、その中のたった一輪でさえ、まだ咲いていないように思えました。



彼女と出会ったのはまだほんの2時間前、静内駅前のレンタサイクル店でのことでした。

二十間道路まで静内駅から片道15キロ。簡単に歩いて往復できる距離ではありませんが、朝7時半という早い時間のためレンタカーも借りられず、1日数本の路線バスが出る時間もずっと先のことでした。

駅前の旅館で自転車を貸している、という話を聞き、あわてて行ってみると最後の1台が今、まさに借りられてしまったところでした。

今日は宿泊のお客さんの予約が入っててね。もともと出せる台数が少なかったんだよ。
気の弱そうなフロントのおじさんは、がっかりした僕の表情を見て、とても恐縮しているようでした。

「よかったら、一緒に乗りますか?」
横のカウンターで申込書に何かを記入していた女性が、突然僕に向かってそう言いました。
「ただし、私を後ろに乗せて桜並木まで連れて行ってくれれば、の話ですけど」

こうして僕は、やや古ぼけてあまり気の利かなそうなママチャリの後ろに彼女を乗せて、曇天の日高のまっすぐな道を走り始めました。



彼女は途中、サラブレッドの親子を見つけると自転車を飛び下りて駆け寄り、雪解け水をたっぷりと運ぶ小川を見つけては冷たい水に嬌声を挙げ、広大な草原に立つサイロに感動しては写真に収めたりしていました。

「はい、ゴールまであと10キロ。頑張って。ペシペシッ」
彼女はときどきふざけて競走馬のように僕の背中やお尻を叩き、はしゃいでいます。
精神年齢は相当若い、ということは十分にわかりましたが、実際の年齢は全く見当がつきません。20代後半でも、40代前半でも不思議ではない気がします。

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国道を曲がると、桜並木の手前に桜前坂、という緩やかな登りが現れました。
車や歩きであれば大した坂ではありませんが、自転車、とくに二人乗りだと厳しい坂です。
桜前坂に差し掛かると、立ち上がって勢いよくペダルを漕いでもほとんど前に進みません。

「やっぱり私、ここで降りようかな…」
彼女が突然、そんなことを言いました。
「そうだね、坂の部分だけ自転車を降りて歩いてくれると助かるな」
「ううん、違うの。桜並木に行かずに、ここで帰ろうかなって」

びっくりして理由を聞く僕に、だって桜、きっと咲いてないでしょう、と彼女は少し拗ねたような表情で言いました。
せっかく東京からこんなに遠くまで来て、あなたにも一生懸命自転車漕いでもらって、でも肝心の桜が全然咲いてないなんて、なんだかバカみたいじゃない。
私っていつもそう。すごくタイミングが悪いし、いろいろなことがなかなか思うようにいかないの。


彼女の言う通り、桜はきっとまだ咲いていないはずでした。
例年ならGWの後半には開花することが多い静内の桜も、今年は5月になっても気温があがらず、開花予想もずいぶん後ろにずれ込んでいました。

それでも僕は、自転車を漕ぐことをやめませんでした。フラフラになりながらも10センチ、20センチと進み続けていると、やがて彼女は何も言わずに僕の背中にピタリと身を寄せました。

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「やっぱり咲いてなかったね」
桜前坂を登り切って、二十間道路と呼ばれる桜並木が目の前に現れると彼女はポツリとそう言いました。

「でもさ、ここに満開の桜が咲いてる、と思って歩けばいいんだよ」
僕がそういうと、彼女は吹っ切れたようにわざと大げさに驚いて、あなたのその楽観的な妄想、とてもいいわ、と言いました。

そうね。素晴らしい桜並木。
5月の真っ青な空、日高山脈の真っ白な残雪、ずっとずっと遠くまで真っ直ぐな道。
牧草の萌えるような緑、若いサラブレッドたちの艶のある茶、何十種類、何百種類にも見える桜のピンク。
最高の瞬間が目の前に広がってる。
これがひとつ目の妄想ね。

さあ、歩きましょう。
そう言って彼女は自転車を降り、僕の手をとってずんずん奥に進みます。

そうだ、もうひとつのほうの妄想を教えてあげる。
今、私の隣にいるあなたが、私の最高のスタリオンだって思うことにしたの。
だから今日はずっとずっと付き合ってもらうからね。
スタリオンは優秀な種馬っていう意味だから、夜も休めないわよ。

覚悟してね。


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ホワイトイルミネーション 【北海道 札幌市】

 2014-12-01
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れは30年近く前の、12月の最初の週末のことです。

「今日、ホワイトイルミネーションの点灯式があるんだけど、一緒に行かない?」
午前中の講義が終わり、大講堂から学部棟へと続く長い廊下を歩いていると、後ろからそんな声が聞こえました。

「ホワイトイルミネーション?」
「あなたは札幌の出身じゃないから知らないかもしれないけど、12月になると大通公園がイルミネーションでライトアップされるのよ。1丁目のテレビ塔から11丁目までぜーんぶ。その点灯式が今日の4時からあるの」
「今日は午後の講義はないから、いいんだけど・・・」
「わたしも今日はこれで終わりだから、ご飯食べてから、映画でもみて時間つぶせばいいじゃない」



彼女は同じ文学部のクラスメイトでした。小柄だけれど僕たちの年代にしてはちょっと大人びた感じの女の子だったので、僕が彼女と直接言葉を交わしたことは、今日までそれほど多くはありませんでした。

なんか心配されてるのかな、それとも、ちょっと同情されてるのかな。

学食へと向かう人波から外れて、札幌駅に抜ける裏門に向かってまっすぐに進んでゆく彼女に遅れないように歩きながら、僕はそんなふうに思っていました。

彼女は、僕がつい2週間ほど前まで付き合っていた女の子と仲の良い友達でした。

別れがあまりにも突然だったせいで、僕はいろいろな物事との距離感をうまくつかめなくなってしまったようでした。毎朝起きると、とりあえず大学の講義に出席し、決められた時間割りが終わると、夜になるまであてもなく街を歩き続けているだけの生活が続いていました。

初めて迎える北海道の冬は、想像以上に厳しいものでした。
けれども、たったひとり、アパートの部屋の中で感じる寒さにくらべれば、どんなにそこが凍てつこうと、商店街のアーケードに飾られたツリーの灯や、街角から流れるクリスマスソングがある分だけ、外に出たほうが少しは生きている心地がするような気がしたのでした。

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街なかから少し外れたコーヒーショップでランチを食べている間も、僕たちはあまり口数多くは話しませんでした。ときどき視線が合うと、彼女はちょっと困ったように微笑むだけでした。

街はずれにある古いリバイバルシアターで『カイロの紫のバラ』という映画を見ました。
僕は映画館の固い椅子に座りながら、相変わらずぼんやりとスクリーンを眺めているだけでした。彼女は、最初のうちは身動きひとつせず、まるで眠ってしまったかのようなでしたが、途中から静かに泣いているようでした。

不思議なことでしたが、そのことに気づいた瞬間、何週間ぶりに、悲しい、という気持ちが僕に戻ってきたのでした。

僕の隣で涙を流している人がいる。
それは、なんてあたたかいんだろう、と思いました。どんなに厚着をして、どんなに暖房を炊いても解けなかった氷の塊が、急激に小さくなっていくようでした。



映画館を出ると、15時半を少し回っていました。
いつの間にか降り出した雪が、車道のアスファルトや歩道のわきに積み上げられた汚れた雪を覆い隠し、あたりは音のない白い世界へと変わりつつありました。
「ちょっと急がないと」
そう言って、やや早足で歩き始めた彼女のマフラーに、白い息と白い粉雪が舞い積もりました。

大通公園のイルミネーション会場の周りにはすでにたくさんの人垣ができていましたが、もうまもなくカウントダウンが始まろうかという直前、彼女は迷うことなく飛び込むようにさっぽろテレビ塔展望台へのエレベーターに乗り込みました。

「いま、うまく点灯すれば、きっといいことあるよ」
僕たち2人だけを乗せたエレベーターが動き出すと、彼女はそんなことを言いました。
「もう展望台の上も人でいっぱいだから。いまこのエレベーターで昇っているときが、私が考えた一番のベストの瞬間」

10秒、20秒、30秒・・・エレベーターがテレビ塔のちょうど真ん中にある大きな時計を過ぎ、まもなく展望台に到着しようかというその瞬間、12月の午後4時の札幌の街並みが濃灰色のコートを脱ぎ捨て、何百万個もの灯が、空中に生まれ放たれたのでした。

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ホワイトイルミネーションの点灯式を一緒に見に行ったふたりは別れる、っていう伝説もあるみたいなんだけど、今日の点灯式は特別だったから、きっといいことあるよ、わたしたち。

彼女はそういってまたちょっと困ったように笑いました。


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いよいよ12月。
皆さんにも、よいクリスマスが訪れますように。







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雪虫の頃 【北海道/札幌市】

 2014-11-18
したいことがあるの。

なんとなく予想していた通り、彼女からそう声をかけられたのは、1986年の10月の体育の日が過ぎたころだった。大学の学食近くのロビーにあるテレビでは、日本シリーズで西武ライオンズの工藤が延長で自らサヨナラヒットを打って4連敗を逃れ、逆転優勝への望みを首の皮一枚つないで飛び上がって喜んでいた(このあとライオンズは本当に広島に4連勝して逆転日本一をなしとげることになる)

僕は重苦しい気分でソファから腰をあげて、先を歩く彼女の1歩半ほど後ろを追って校内のメインストリートから外れた深い森の中へと黙って続いた。


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彼女が見知らぬ男と楽しそうに歩いているのを見たのは、その3日前のことだった。

風邪で寝込んでしまった友達のピンチヒッターで、僕は急遽札幌の地下街の通行量調査のアルバイトを引き受けることになり、左手にカウンターを持ち、目の前を通り過ぎる人々の数を機械的にカウントしていた。
最初にその姿を見かけたとき、僕は自分が夢の中にでもいるのかと思った。いつも僕の隣を歩いているはずの彼女が、僕以外の男と、今まさに僕の目の前を歩いて過ぎ去ってゆこうとしていることが全く信じられず、とうてい現実の出来事とは思えなかった。
しかしそれは紛れもない現実だった。もともと168cmもある彼女が、やや首を右斜め上にして見上げるほど身長が高く、ちょっと長めの髪をごく自然にウェーブさせた、大人びた男が彼女と肩を寄せ合うようにして微笑んでいた。

実はそのあとのことを僕は今でもあまりよく思い出せない。
ただ、もうアルバイトどころではなくなって、近くの公衆電話から手当たり次第に友達に電話をかけ、代打の代打を依頼して、地下街から抜け出したことだけは覚えている。



「あれは私と同じ軽音部の先輩だから」
その晩、僕が二人の姿を見たことを伝えると、彼女は受話器の先で一瞬、少し動揺したような気配を漂わせたものの、すぐにそう言った。
「たまたま帰りの時間が一緒になって駅まで一緒に行ったついでに、ちょっとお買い物に付き合っていただけだから」

心配することはない、と何度も繰り返されて、結局、僕は受話器を置いた。
けれども、よかった、勘違いだ、と思おうとすればするほど、不安は高まってくるのだった。
思いを寄せ合った同士ではないと醸し出せない雰囲気、というものがあるとすれば、昼間の二人にはそれが確実にあるように思えたからだった。



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灰色にどんよりと曇った空の下、教養学部と工学部の間の路を野球場や付属農場のほうに向かって奥に進むと、札幌駅から1キロほどしか離れていないのが信じられないほどの原生林が広がっていた。校内の木々はもうすっかり色づいて、道端に寄せられた枯れ葉が長い一本の線のように連なっていた。

「私の心の中に二人のひとがいるの」
ほら、やっぱり来た、と思った。
「半分はもちろんAくんなんだけど、もう一人はこの間の先輩なの」
ふたりは全く同じ大きさで、彼女の心の中のスペースを占めているのだ、と彼女は言った。

そんなことはないよ、と僕は言った。
もともとそこは僕がいた場所だったんだ。あとから来てあっという間に半分も占められたら、遅かれ早かれやがて居場所がなくなってしまうのは、いくら僕でもわかる。
そうかもしれない、と彼女も言った。

「本当にごめんなさい。でもAくんのこともすごく好きなんだよ」
そう言われたとき、今まで張りつめていたものが一気に崩れて、僕の中から何かがごそっと抜け出してしまい、その場に座り込んでしまいそうなほどの無力感が僕を襲った。



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大学入学。夢にまで見た北海道、初めての一人暮らし。
教室の隅っこで見つけた背の高い女の子。くりくりの大きな瞳。ときどき見せるびっくりするくらい短いスカート姿から伸びる、まっすぐで長い脚。
本州より1か月以上遅い花見、ジンギスカン。ポプラやエルムの新緑。
銭函や小樽の海岸、たき火。支笏湖の透明な水。
夏のニセコでの肝試し、羊蹄山。彼女の住む小樽の町並み。
僕が不覚にも涙をこぼしそうになってその場に立ち尽くしていると、突然、彼女があっ、と声を上げた。


「雪虫が」
彼女はそう言って僕の黒いジャケットの袖にそっと手を添えた。
彼女の指先には3ミリほどの白い羽虫がとまっていた。
「雪虫?」
「そう。毎年秋の終わり頃にやってくる小さな虫。雪虫が舞い始めると、もう雪が近いので、どこからか雪を運んでくる虫なのよ」
Aくんは内地の人だから初めて見たのかもしれないけど。
彼女はそう言ってそっと僕の袖を振った。
雪虫はちょっとどまどったように2,3歩僕の袖の上を歩くと、やがて意を決したように飛び立っていった。


見上げた空に、たくさんの雪虫が飛んでいる、と思ったら、それは北海道の長い冬のはじまりを告げる、その年初めて降り出した本物の雪だった。



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僕が初めて雪虫をみてから3年ほど経った秋、札幌市内のミニシアターで『雪虫の頃』という映画が上映されるという話を聞いた。

隣の大学の映画研究会に、数々のアマチュア映画祭で賞を受け、学生ながらも将来を嘱望されている男がいた。『雪虫の頃』は彼が制作した初めての興行映画だということだった。

僕は当時、自主映画をつくるサークルに所属していたので、彼の活躍はもちろん知っていたのだが、自分たちは大学の公式な映画研究会でもなく、遊び半分の気楽なサークルだったので、特に注目したり彼の作品を観に行ったりすることはなかった。
特にこの作品はタイトルがタイトルなだけに、僕にとってはようやく癒えた深い傷口を広げるようで、あまり観に行きたいとは思わなかった。
それでもどこからかチケットをもらったサークルの友達に強く誘われて(一緒に行く予定だった相手が急に来られなくなったらしい。そう、このときもまた代打だった)、札幌市内の小さな映画館で行われたその試写会と記念イベントに渋々行くことになってしまったのは、やはり10月中旬のどんよりと曇った日だった。



オープニングでスクリーンに映し出される女優のうしろ姿を見て、3年前、地下街で彼女が見知らぬ男と歩いていた時と同じような感覚がよみがえった。
彼女がこんな映画に出ているはずがない。
しかし現実にこうして映し出されているその見覚えのあるうしろ姿は、彼女に違いなかった。

またもや僕は混乱した。だから映画の細かなストーリーは今でもよく思い出せない。
ただ、彼女はかなり汚れた役をこなしていた。あまりタチのよくない男にうまくだまされて、ススキノの夜の店で働く女を演じ、そこには何人かの男との交わりもあった。
しかしそれは僕にはもう関係ないはずのことだった。彼女はあの日、雪虫とともに僕のもとを去ってしまったのだ。今さらどこで何をしようと僕は何もいうべきではない。
それでもこの場からすぐに立ち去りたかった。やっぱり来なければよかった、と思った。
しかし腰が上がらなかった。あの別れの日と同じように、心のどこかに必死で押し込み続けていた何かが、僕の中からまたごそっと抜け出してしまい、僕は無力にも立ちあがることさえできなかった。

「あの雪虫の日に」
映画のラストシーン近く、スクリーンの中で彼女がそう言っていた。
「もどりたい」
それは僕のほうだ。あの時彼女を引きとどめなかったことを、どれだけ悔み続けていたか。

映画が終わると、例の僕たちと同世代の監督、そして出演者がスクリーンの前に登場した。
その中には、もちろん彼女の姿もあった。
肩までだった彼女の髪は、背中を覆い隠し、まもなく腰まで届きそうなくらいになっていた。あの頃、くりくりとよく動いていた瞳は、心もち落ち着いて、それが彼女をとても大人びてみせていた。
僕は会場の後ろのほうで彼女から身を隠すようにその様子を眺めていた。
頼むから今の僕の、この情けない姿を見ないでくれ。そんな思いだった。

「これは私の自伝的な作品でもあります」
彼女がマイクを通してそんなことを語っている。
「ススキノのお店で監督に声をかけてもらわなかったら、私は今頃もう北海道にもいられなかったかも知れません」
「映画の中だけでも、あの雪虫の頃に戻れたら、きっとやり直せる、と思ってこの作品に出ることにしたんです」

目を瞑ってそんな彼女の言葉を聞いている僕のほうへ、誰かがまっすぐ歩んでくる気配を感じて顔をあげる。
会場前面のスクリーン前を照らしていたスポットライトはもう彼女を追いきれず、会場内の薄暗い灯りの中、記憶の中から取り出したばかりのようにぼんやりとしていた彼女の顔が、次第に鮮明になる。
そのとき、どこからともなく1匹の雪虫が、頼りなさそうにふわふわと僕と彼女の間に舞いこんでくる。

雪虫があの時と同じように僕の黒っぽいジャケットにとまると、彼女は再び僕の袖にそっと手を添えてこう言った。

ねえ、今度は絶対に飛んで行ったりしないから。
だからこのままそっと私の手を引いて、もうどこにも逃げないように、どこか遠くへ連れて行って。

外に出ると、空をたくさんの雪虫が舞うように、また、その年初めての雪が降り始めていた。


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ペンフレンド 【北海道川上郡弟子屈町美留和】

 2014-11-02
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北海道のずっと東のほうに美留和(びるわ)という美しい名前の場所があります。

僕はもう30年以上も前、そう、小学校6年生から中学の3年生まで、そこに住むあるひとりの女の子と文通(懐かしい響きです・・・)をしていました。
どうして彼女と文通なんかを始めたのか、その詳しいきっかけは今ではもうすっかり忘れてしまいましたが、その見知らぬ女の子から届いたはじめての手紙に書いてあった、その「美留和」という住所の透明な響きと、丁寧に小さく書かれてはいるけれど、どこか不思議な意思の力を感じさせる彼女の筆致に、ココロの片隅をキュッとつねられたような気持ちになったことを覚えています。

彼女と手紙で話していた内容は、自分たちの住む町のことや学校のこと、夏休みの出来事やテストのことなど、当時の普通の小学生や中学生が話していたような他愛のないことばかりでしたが、僕はいつの間にか、遠く離れた北海道という未知の土地から月に1回か2回やってくる、その手紙を毎日心待ちにするようになっていました。

そう、彼女がなにげなく話してくれる美留和の話が、僕はとっても好きでした。

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Aくんもご存知のように私の家の住所は「北海道川上郡弟子屈町美留和」です。
1丁目も1番地も1号もありません。
だって私の家から5km四方に、たぶん「池田」なんて苗字の人は私の家族しかいないから。
だからAくんの家のように住所にたくさん数字が並んでる場所ってどんなところなんだろう、ってとっても興味があります。
きっとビルや商店街がどこまでも続いていて、おいしいケーキ屋さんとか、たくさんの雑誌が並んでいる本屋さんとか、いつも最新の作品を上映している映画館があるんでしょうね。
いいなあ、いってみたいなあ。
でも私みたいな田舎の子はきっとそんなところには住めないんだろうけど。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   

ねえ、知ってる?
私の通う美留和小学校って、全校生徒で12人なの。
6年生は私ひとりで、あとは5年生と2年生が3人で4年生と3年生が2人づつ。今年の新入生もひとりっきり。
おまけに私のおとうさん、その小学校の先生なの!
だからこの3年間、毎日おとうさんの授業があるし、しかも私は今年6年生で最上級生だから、なにかあると全部私ひとりが怒られるの。
来年から中学校だから、あと1年の我慢なんだけど、おとうさんも美留和中学校に転勤になっちゃったらどうしよう!って今から悩み中なの。
だからもしそうなっちゃったら、Aくんのところに引っ越しちゃうかも。
そのときはヨロシクね!

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突然ですけど・・・Aくんって彼女はいるんですか?
急にこんなこと聞いてごめんなさいね。
実は中学になって初めてできた私の唯一の同級生(もちろんすぐに親友になりました)が、高校生の先輩と付き合うことになったみたいなんです。
もちろん私の友達でそんなことになったひとって初めてだから(田舎ものって笑っちゃイヤよ、だって私の近くには恋人になれそうな人って本当にいないんだから・・・)なんだか不思議な感じで。
Aくんにもし彼女がいるのなら、どんな女の子なのか、とか、どういうきっかけで付き合うようになったのか、とか、どんなデートしてるのか、とかいろいろ聞いてみたかったんです。
でも、もしAくんに彼女がいなかったら、ちょっとお願いしたいことがあります。

その親友にね、彼はいないの?って聞かれたとき、私、Aくんの名前を言っちゃったの。文通している東京の男の子だって。
とってもやさしくてカッコいい人だよ、って。
だってちょっとだけ悔しかったんだもん。
逢ったこともないのに、お互いの顔さえ知らないのに、私ったらそんなこと言っちゃって・・・
遠く離れてるから、絶対にバレるわけないんだけど、なんかすごく罪悪感があって、Aくんには謝っておきたかったの。
ごめんなさいね。
お詫びにってわけじゃないけど、修学旅行で札幌に行ったときに撮った、私の写真送りますね。
もしよかったらAくんの写真もください。友達に見せたりはしないから。。。

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彼女から送られてきた手紙の中には、札幌の時計台の前でちょっと首をかしげながら控えめにピースサインをしている制服姿の小さな女の子の写真がありました。
透き通るような白い肌の上の、赤いマフラーと手袋がとてもまぶしく見えました。
その手紙が届いてから、僕は一週間もの間、学校から帰ってくると机の引き出しの奥にしまったその写真を、毎日毎日起きているあいだじゅうずっと眺めていました。

そして僕はずっと悩んだ末に、自分の中学の同級生の写真を入れた手紙を彼女に送りました。
なぜそんなバカなことをしてしまったのか、みんなそう言うでしょう。
僕だって今は、そう思ってほんとうに強く反省しています。
でもその当時の、15歳になったばかりの僕は、きっとそうせざるを得なかったのだと思います。
野球部だった僕は、そのころはまだ坊主頭で、とてもじゃないけど、彼女が想像するような、都会のスマートなオトコではない、と思っていたからです。
そう、その美しい名前の場所に住む、美しい女の子にはきっとふさわしくないオトコだ、と。



結局、僕が彼女に送った手紙は、それが最後となってしまいました。
『Aくん、素敵な写真ありがとう。写真だけでも逢えて本当にうれしいです』
彼女から来た返事のその文面を見て、もう、これで終わりにしよう、と思ったからです。
『もしかしたら、本当に逢うことは一生ないかもしれないけれど、私の最初の恋人は、Aくんでした、って思うのだけは、許してくださいね・・・』
それが本当の僕に向けて発せられた言葉ではない、と思うのがとても辛く感じたからでした。
写真の中央で満面の笑みを浮かべている、背が高くて髪の長い、クラス一の人気者の男の子の横に写っていた、まだ伸びきっていない坊主頭の僕に向けられた言葉ではない、ということが。



最後の手紙から数年後、北海道の大学に進学していた僕は、ある年の夏休みにひとりで美留和を訪れたことがあります。
もちろん彼女には内緒でした。
ただ、彼女がその手紙の中で話してくれたその美しい土地を、一度でいいからこの目に焼き付けておきたかったからでした。

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貨車を改造したような小さな無人の駅舎と、短いホームがたった1本だけの駅を降りると、駅前のまっすぐな道に沿って数軒の家があるほかは、彼女が言っていたように、そこは白樺や名も知らぬ木々の原生林、そして広大な牧草地となだらかな丘がどこまでも果てしなく続く、静かな、静かなところでした。
結局、彼女が住んでいる(あるいはかつて住んでいた)家を探し出すことはできませんでしたが、なぜだかようやくこれで彼女に許してもらえるような気がしました。



それ以来、もうずっと長い間、僕はそんな出来事を忘れていました。
なぜ今になって急に彼女のことを思い出したのか、そしてなぜもう一回彼女に手紙を書いてみようなんて思ったのかわかりません。
ただ、北海道を旅する前になんとなく地図を見ていて、美留和という地名がぼんやりと目に入った瞬間、僕は発作的に彼女への手紙を書き出していたのでした。
30年ぶりの、着くあてのない、長い長い手紙を。



それはびっくりするほど早くやってきました。
「美留和」という、今もなお変わらない透明な響きの住所と、こころもち大人びた形に変わってはいるものの、丁寧に小さく書かれて、どこか不思議な意思の力を感じさせる筆致で記された、あの彼女からの返事が、僕のもとへと届けられたのは。
『北海道にいらっしゃるのなら、是非美留和までお越しください』と。



本当のAくんがどの人だったのか、ホントは私、知ってたのよ。
僕が30年前についたウソを謝ると、彼女はそう言いました。
だって私たち、4年間も文通してたんだもん、そんなのすぐわかるに決まってるじゃない。

僕たちは、美留和駅の誰もいない小さなベンチに座っていました。
僕が黙り込むと、白樺林の間からやわらかく差し込んでくる木漏れ日と、時折聞こえる甲高い鳥の鳴き声だけがあたり一面を支配していました。

あのとき、私、こう思ったの。
あぁ、やっぱりAくんには彼女がいるんだ、だから違う人の写真を教えたりするんだな、って。
私が勝手に恋人なんて言ったのがいけなかったんだな、きっと嫌われちゃったんだな、って。

あのときの写真の女の子が大人になると、今、僕の隣に座っている彼女になるんだろうか?
なんて話していいのかわからずに、僕はぼんやりとそんなことを考えていました。
そうなるような気もするし、そうならないような気もする。でも、赤いマフラーと手袋は、今でもきっとすごく似合うんだろうな、と。

「私ね、家族はみんないなくなっちゃって一人っきりになったくせに、今でも一丁目も一番地もないまま、ずっと同じ家に住んでるのよ。おまけに今ね、美留和小学校の先生をしてるの。たった6人の生徒と。ホント、あの頃と全然変わらないままなの、笑っちゃうでしょ?」
「いや、僕だって坊主頭からようやく髪の毛が伸びただけだよ」
「ねぇ、坊主頭のAくんもとっても素敵だったのよ。でももちろん今のAくんのほうがもっと素敵に見えるけど」

だって30年かけて初めて出逢えた初恋の相手なんだから。
そう言うと彼女は僕の手を取って立ちあがりました。
また30年後まで逢えないと寂しいから、今日はうちに遊びに来てね、と。

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昨日、問寒別で ~「昨日、悲別で」へのオマージュ 【北海道・問寒別】

 2014-06-16
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稚内の日記を書いてたら、ちょうど北海道が舞台で、僕が大好きだった倉本聡さんのドラマ、「昨日、悲別で」のような妄想ドラマが思い浮かびました。

60分モノくらいでしょうか。ちょっと長いですが、ぜひ妄想力を最大に働かせて、映像を思い浮かべながらどうぞ!

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【シーン1(以下Sー1)】
(効果音/以下SE)列車の音、フェードイン。

《カット1(以下Cー1)》
夕暮れ。宗谷本線の鈍行列車。
たった一両の車内は、バックパックを背負った旅行者と地元の高校生が数人。
4人掛けボックスシートの、男(=語り手・僕)の前に座っている美雪(=主人公)。

(男のナレーション/以下NA)
「それはあの時の彼女に間違いなかった。あの時と雰囲気はずいぶん変わってしまったが、僕は確かに覚えていた」

《Cー2(男の回想)》
3年前。9月下旬の午前7時。
雲ひとつない快晴、透明な冷気。
たった一両の宗谷本線旭川行き一番列車がゆっくりと小さな駅の短いホームに停まる。
まばゆいばかりの逆光の中に、問寒別(といかんべつ)という駅名標が見える。
(男のNA)
「それは何故か僕のこころを打つ、感動的なシーンだった」

《Cー3(男の回想続き)》
古い貨車を改造して作られた駅舎。
駅前からまっすぐに延びる道路脇に民家が数軒。その先は広大な牧草地。
駅のホームに老夫婦。
その向かいにスラリとした美雪の後姿。右手に大きなスーツケース。
きちんとした農作業着に帽子姿の父親、無言で美雪を見つめている。
母親は、大きな紙袋を彼女に手渡し、しきりに何か言っている。
美雪が列車に乗り込む。
ドアが閉まる瞬間、父親が短く何か言うが、発車のクラクションにかき消される。
まっすぐな線路が原野の中に延びている。
美雪は最後尾の窓ガラスの前に凛と立ち、ホームに立つ両親をいつまでも見つめている。
彼女の目を、ひとすじの涙が伝う。


(男のNA)
昨日、問寒別で、彼女は迷い
今日、問寒別で、僕と出会った
明日、問寒別に、彼女は帰る


BG(主題歌)、NA終りと同時に。  『22才の別れ(かぐや姫)』

タイトル、カットイン  『昨日、問寒別で』

BG、ワンコーラスでフェードアウト



【Sー2】
《Cー1 再び列車の中(現在)》
問寒別を過ぎても、美雪は降りない。
列車が駅に停まっている間じゅう、伏せた顔をあげない。
そのまま列車は発車してしまう。

男「今日は問寒別で降りなくていいんですか?」
美雪、驚いたように顔をあげて、男をまじまじと見つめ言う。
「それ、今話さなきゃダメですか?」

《Cー2 夜、稚内市街》
居酒屋『さいはて』の看板。
店内に流れる演歌。
ビールグラスを前に、美雪はやや俯きながら、ポツリポツリと話しはじめる。
あまり口をつけていないメンソールタバコから、立ち昇る煙。
美雪「私、あんな田舎では珍しく、一人っ子で、両親にすごく可愛がられたの」

《Cー3(美雪の回想/問寒別)》
農作業用の車の助手席に幼い美雪を乗せて、まっすぐな農道でハンドルを握る父親。
吹雪の夜、稚内の学習塾の前で、凍えながら美雪を待つ母親。
小さい頃のダンスのレッスン。
華やかな舞台での発表会。
朝早くから牛舎で世話をする両親の白い息。

(美雪のNA)
「すごく期待されて札幌に向かったのが、19の時。あなたが見たのは、きっとその時だったのね」

《Cー4(美雪の回想/札幌)》
ダンスのレッスン。
よろめいて倒れ、コーチからなじられる美雪。
夜、コンビニでカゴに入れられる、賞味期限間近の値引きされた弁当。
暗い店内で水割りを作る厚化粧の美雪。
ススキノのネオン街。
ホテル街を男と腕を組んで歩く美雪。
再びダンスのレッスン。
上気した顔の、こめかみから伝わる汗。
オーディションの合格者が貼り出された壁。
静かに立ち尽くす美雪の後ろ姿。

(美雪のNA)
「もう限界。ずっと問寒別に帰りたかったの。でも…やっぱり駅には降りられなかった」

《Cー5(イメージ)》
美雪からの年賀状をいつまでも見つめている父親。
電話で楽しそうに話す母親。
牛舎の両親。

美雪「だから今日帰るところがないの。あなたのホテルに行っていいかしら?」
店内を流れる演歌。

《Cー6(稚内の寂しい歓楽街)》
トロンとした目で、よろめきながら、男の左腕をつかんで歩く美雪。
美雪「あたし、もうキズものなの。ほら」
めくり上げたスカートの下、太腿に描かれたタトゥー。
美雪「こんなあたしでも、本当にいいの?」
美雪、男の目を覗き込む一瞬だけ、真剣な眼差し。

《Cー7(朝、ホテルの部屋)》
レースのカーテン越しに差し込む光。
突然ベッドから飛び起きる美雪。
着衣を確かめ、左右を見回し、ソファの男に気づく。

美雪「あれ、私、昨日のこと…」
男「すごくぐっすり眠ってたよ」
美雪「私、変なことしなかった?」
男「うん、大丈夫。でも…」
美雪「でも…?」
男「お父さん、お母さん、って…何度も。」
美雪「…そう。でも、ダメだよ。帰れないよ…」



【Sー3】
《Cー1 稚内駅》
真新しく広い駅舎。
旭川行き鈍行列車改札の放送。

美雪「ねぇ、どこに行くの?」
男「とにかく次の列車に乗ってみよう」
美雪「私、問寒別には帰らないわよ。だったらこのまま札幌まで戻る」
男「利尻富士、キレイに見えるかな?」
美雪「利尻富士?頂上に雲がかかってることが多いから、どうかしら…」

稚内の空。
岬のまち特有のどんよりとした雲が、すごいスピードで流れている。

美雪「アイヌの人たちは、利尻がよく見える日に、よく懺悔したって。神様の機嫌がいい、珍しい日だって…」
男「そう。だからもし、利尻が100%完璧に見えたら、問寒別に帰らないか?」
美雪、一瞬言葉につまる。
必死で何か言おうとする。

男「この先、抜海の駅の手前で、一瞬だけ利尻が望めるところがあるでしょう。そこでもし100%完璧に見えたら…」
美雪「神様が許してる…」
男「そうそう」

美雪、じっと何かを考え、大きく首を振る。
美雪「雲だってこんなに厚いし、無理だよ、きっと」

稚内上空。
流れる雲の間からときどき太陽の光が差し込む。

《Cー2 宗谷本線、車窓》
稚内の駅を発車する一両の列車。
駅前の雑居ビルが流れ去り、だんだんと民家が減ってゆく。
やがて、一面のサロベツ原野へ。
岬側はまだ厚い雲が流れているが、海岸方面の空は、明るい。
運転席横の窓ガラス前に立つ美雪。
あの時と同じように凛とした姿。

(SE)海岸段丘の勾配を登るディーゼルカーのエンジン音、だんだん高まって。

《Cー3 宗谷本線、車窓続き》
列車は、突然空中に浮かび上がるように、海を見下ろす高台に出る。
正面に、利尻富士。
雲ひとつないその雄姿。
美雪、へなへなと男に倒れかかる。
そのまま顔をうずめて声を出さずに泣く。

(SE)問寒別に向けて勾配を下るディーゼルカーの軽快な音、かすかに。

《Cー4 イメージ》
幼い頃のダンスレッスン。
ススキノの、ホテルのネオン。
問寒別の牧草地。
サイロ越しに見える利尻の雄姿。



【Sー4】
《Cー1 問寒別駅 イメージ》
まっすぐに延びる線路。
朝日を浴びた駅名標。
キラキラと光る朝露。

《Cー2 宗谷本線、車内》
美雪「ひとりじゃ怖いから、一緒に家まで来て欲しいの。ダメですか?」
男「いきなり行ったらビックリするでしょ?そもそも何て紹介するの?」
美雪「一緒に一夜を過ごした、大切なひと、って…」
男「おいおい、俺は何もしてないぜ…」
美雪「知ってるわよ」
すっかり泣き止んだ、美雪の笑顔のアップ。
美雪「じゃあ、いつか一緒に一夜を過ごすかもしれないひとって…」
言い終わる前に問寒別到着間近の車内放送。
列車がゆっくりとスピードをおとしはじめる。

《Cー3 問寒別駅 》
遠くのホームにふたつの人影。
(スローモーション)
美雪の表情。
昔よりいくぶん背筋が曲がった父親の後ろ姿。
ホームから身を乗り出して列車の到着を待つ母親。

(BG)『駅舎(さだまさし)』 カットイン。

《Cー4 問寒別駅 》
列車が到着し、開くドア。
驚きで目を見開く母親。
直立不動のまま、うっすらと目に涙を浮かべる父親。
男、美雪の背中をそっと押す。

発車のベルもなく、ドアが閉まる。
男、最後尾の窓ガラスの前に立ち、離れてゆく駅のホームを眺めている。
美雪、一瞬、後ろを振り返るようなしぐさを見せるが、そのまま両親のもとに駆け寄る。

BG、『駅舎』、だんだんと大きくなって。

男、ボックスシートに座り、あの時と同じように朝日に目を細める。
列車はサロベツ原野を駆け抜けてゆく。

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エンディングロール



「完」

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