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狐の嫁入り行列 【2018 会津夢幻たび-番外編】

 2018-10-10
前編「 せくすぃーな女狐とか、阿賀野川カヌー遊びとか


がつくと、SLに乗っていました。

ここはどこかの米どころなのでしょうか、見渡す限り一面の田んぼの中を、SLは体が重たくて仕方がない、といわんばかりにうぉー、うぉーと喘ぎながら走っていました。
僕は4人掛けのボックスシートに一人ぽっちで座っていました。周りのボックスは小学生の子供を連れた家族だったり、若い女性のふたり組だったり、小柄な老夫婦だったりと、ほぼ満員の状態でしたが、あまりにもSLが喘ぎすぎるからでしょうか、車内からは不思議と何の音も聞こえてきませんでした。

両側から次第に山が迫ってきて、青緑色の水をたっぷりと湛えた川が、いつの間にか線路のすぐ下に寄り添ってくると、列車はガタン、という大げさな音をたてて山あいの小さな駅に停まりました。

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窓の外には「つがわ」という駅名標と、狐の姿をした花嫁のようなイラストが見えました。
時計は7月の午前11時を過ぎようとしていましたが、空がうっすらと曇っているせいか、梅雨明けの夏の暑さはまだここまで訪れているようには見えませんでした。
列車はすっかりここに腰を落ち着けてしまったようで、あれだけ激しく喘いでいたのが嘘のように、今はしん、と静まり返って、動き出す気配はまったくありません。

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そんな外の景色をぼーっと眺めていた僕の左手に、誰かの冷たい右手がそっと触れました。
見上げると女狐が、僕の手を取ってじっとこちらを見つめています。すっと細い鼻筋に真白な白粉が塗られ、朱色に染められた額や瞼の下の切れ長の瞳に見つめられると、それだけでまるでよくない世界へと誘惑されているかのような錯覚に陥ってしまうのでした。

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周りの乗客が次々と狐たちに手を引かれて列車を降りるのを見て、僕も誘われるままにプラットホームへと降り立つと、ホームには狐の嫁入り行列のような衣装を着た隊列が提灯をもって並び、その前では子狐たちがぴょんぴょんと飛んだり跳ねたりしていました。
乗客は狐に導かれて跨線橋を渡り、改札口で狐の駅長に切符を渡すと、駅舎の中で全員狐に変身させられてしまうのでした。

僕の左手を取った女狐は冷たい右腕をピタッと寄せたまま、駅舎の中まで導き、そのまま僕を男狐に仕立て上げます。白粉や朱の染め物はそんなに抵抗ありませんが、左右に3本ずつ描かれるひげが恥ずかしいな、と思っていると、女狐は大丈夫、というふうに少し微笑んだように見えました。口角が上がると彼女の3本ひげは、白い頬の上でとっても魅力的な曲線を描きました。

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狐になった乗客は駅前から河岸へと降りて、渡し船に乗って阿賀野川を渡ります。
二艘の渡し船の船頭も、もちろん狐。100メートル以上はあろうかという川幅の広い阿賀野川をゆっくりと進み、かつて津川の河港だった場所へは約15分ということでした

私たちは、一番最後に行きましょう。
相変わらず僕の左隣に寄り添っている女狐からは独特の匂いが漂っているようでした。
それは濃い緑色をした植物に咲く、原色の花のような妖しさと、人間の赤児が発するほのかな甘さとが入り混じったような不思議な匂いでした

君はどうしていつまでも僕と一緒にいるんだろう?
そんな問いを投げかけても、彼女はきっとまた少し口角を上げて、あの魅力的な、そして妖しい曲線を見せつけるだけだろう、という気がして、僕は黙ってなすがままに彼女と二人きりの渡し船に乗り込みました。



このまま二人できりん山に行ってもいいのよ。
彼女の躰から、濃い緑色をした植物の、原色の花の匂いが強く漂いはじめました。

きりん山?

そう、麒麟山。
この先に見えるでしょ?垂直に尖った山が。
昔はそこにたくさんの狐がいて、毎晩狐火が出たのよ。でもあまりの険しさに狐も今はみんなこっちに出てきちゃったけど。
だから今なら誰もいないわよ。

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いや、まずはみんなと同じところへ行ってみるよ。

僕がそう答えると、彼女の匂いはすっと赤児のようなほのかな甘いものに変わりました。




対岸に渡ると、思った通り、そこには狐の町がありました。
北国の豪雪地にあるような古い木造のアーケード通りには人影はほとんど見られませんでしたが、店の中で所在なさそうにあくびをしている店主やその家妻はきっと狐に違いない、ということは直感的にわかりました。

あちこちの店先から真っ白な毛並みの美しい狐の子どもが僕たちを覗き見るようにちょこんと顔を出すのですが、すぐに見てはいけないものを見たかのように身を潜めてしまいます。

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先に行った人たちは狐の嫁入り屋敷にいるわよ。
そう言って女狐は僕の左手をクイっと引っ張り、町の中心部の川沿いに立つ大きな建物へと導きます。

あなたが来たいと言ったからここに来たけれど、と女狐は朱色で切れ長の目で僕をじっと見つめて言いました。
これから、いろいろとたいへんなことが起こるわよ。


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屋敷の中に入ると、50人は入れそうかと思われる大広間の東側には紋付き袴の男狐が、西側には黄金色の着物に市女姿の女狐が並んで座っていました。
僕たちが広間に入ると、まるでその到着を待っていたかのように全員がこちらに視線を向け、男衆も女衆も一斉に立ち上がりました。

これから狐の嫁入り行列よ。

彼女が小声でそうつぶやいて僕から離れて女狐衆の方へと進むと、僕はあっという間に男狐衆に取り囲まれて、紋付き袴姿にされてしまったのでした。




狐の嫁入り行列は総勢108人。

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イヤーソーライーという木遣りにのせて、嫁入り行列は狐町に向けておごそかに出発しました。
白無垢姿にされた女狐は、両手のこぶしを軽く握り、右手を乳房の横に、左手を脇腹に添えながらゆっくりとゆっくりと歩いて行きます。

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今は人間の女性の姿をしている彼女がそれをやるとコミカルな動きにしか見えないのですが、これが彼女本来の姿なのでしょうか。


嫁入り行列が行ってしまうと僕は数人(数匹?)の男狐に連れられて屋敷から再び河岸へと向かいます。
男狐たちの説明によると、この先の阿賀野川の橋の上で花嫁を迎え、それから婚礼会場へと向かうのだそうです。

でも、どうして僕が狐の婿にならなければいけないんだろう?
誰に向かってでもなく、僕がそう問うと、隣りにいた一番の長老のような狐がこう言いました。

人間界からの生贄さぁ、この町から人が減り始めてからぁずっとそうさぁ。

人間は狐を使ってここに人を呼び込む。
狐はその見返りに若い働き盛りの人間の男を婿入りさせて狐町に住まわせる。
狐町は普通の人間には見えない。
僕には見えたけれど。

あぁ、でもあんたを選んだのぁ、あの狐の女よ。
あの女ぁ、アタリだよ。色も白ぇし肌も艶々さぁ。いっぺぇ子供造りたくなる女だぁなぁ。



不思議なことにここに来てから時間の感覚がなくなってしまったようで、狐の花嫁行列が戻ってきたのは出発してから何時間後かわかりませんが、町はもう夕暮れを迎えようとしていました。

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橋のたもとに到着した行列から離れて、女狐が1人でこちらに向かってきます。
橋の真ん中に立つ僕を囲っていた男狐たちもいつの間にか姿を消しています。



このまま川に飛び込むわよ。
女狐は再び僕のそばにピタッと身を寄せ短くそうつぶやいたかと思うと、僕の手を取り川に身を投げました。



気がつくと、僕は女狐とともに橋の下にあった小さな渡し船の上に倒れこんでいました。
僕たちが乗ると、不思議なことに渡し船はひとりでに上流へと進みはじめ、川沿いに焚かれたたくさんの篝火が、阿賀野川の水鏡に映ってゆらゆらと揺らめいているのが見えました。

このまますぐに麒麟山に逃げ込んでも、きっと追手がくるからもう少し先まで行きましょう。

そう言って彼女は白無垢を脱ぎ始めました。

貴方も脱いで。
そしてこれを麒麟山の水辺に捨てておくのよ。

彼女が抜き捨てた白い打掛や綿帽子がゆらゆらと麒麟山の方へと流れてゆきます。
僕はそんな彼女から目を背けながら自分の着衣を川に投げ捨てていたのですが、掛下を脱ぎ捨てたあとの彼女からは本当に艶々と言われる狐色の毛並みが現れるのか、どうしても気になって一瞬盗み見たその肌の色は、篝火に火照った人肌と同じ色をしていました。


渡し船が上流に進み、河岸の篝火が見えなくなるところまで来ると、空には一面の星が輝いていました。

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女狐は渡し船の上でも僕の左腕にピタッと寄り添っていたので、僕は星を見上げることしかできませんでした。
彼女の肌からは艶々の狐の毛並みではなく、柔らかく盛り上がった生暖かい火照りしか感じなかったからです。

そのうちホタルも飛び始めるわよ。

彼女がそういうと、どこからか一匹の蛍が現れて僕たちの前をふわふわと二度、三度行ったり来たりすると、彼女の左肩の上に止まりました。

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蛍があんまり激しく光りすぎると、彼女の艶々とした肌が闇から浮かび上がってしまいそうで、僕はやっぱりまた空を見上げながらずっと不思議に思っていたことを聞いてみました。
君はなんで僕を選んだんだろう、と。



あなたが私と結婚したい、って言ったんじゃない、と彼女は答えました。
もうずっと昔のことだから覚えてない、なんて言ってほしくないけど、私はずっと忘れてなかったのよ。

女狐になってしまったことで、どれだけそれを凝視しても、もう彼女に昔の面影が残っていないのはわかっていました。
けれども僕の左腕に感じる柔らかく盛り上がった生暖かい火照りと、彼女の躰から再び漂い始めた、濃い緑色をした植物の、原色の花のような匂いは遠い昔、どこかで触れた記憶があるような気がしました。



ほら、麒麟山を見て。
私たちを探す提灯の明かりがまるで狐火のように見えるでしょ?
あれが消えたらふたりで麒麟山に入って、今度こそずっと一緒にいてくれるわよね?



遠く麒麟山の麓から中腹にかけて、いくつもの赤い灯がまるで狐の嫁入り行列のように連なっているのが見えました。
僕は空を見て、彼女の艶々な肌に止まる蛍を見て、そして無数の狐火を見て、これからずっとこんな美しい夜を過ごすのも悪くはないのかな、とぼんやりと考えていました。



<了>





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