The Woman in the Dunes  ~平成版 砂の女 【東京都】

 2014-09-20
前編  都バス最長距離路線の女
前編—2 青梅・昭和レトロ街の女

<前編—2から続く>

sunanoonna.jpg


の女 -The Woman in the Dunes

そうか、あの名刺に書いてあった「Dunes」というのは、たしか砂丘という意味だったよな。
遠い昔の高校時代の頃からでしょうか、そんな淡い記憶がよみがえってきました。

砂の女 — もちろんそれが安部公房の代表的な小説であることは知っていました(読んだことはありませんが)。
そして遠い昔に映画化されて、海外で高い評価を得ていることもなんとなくは知ってました(観たことはありませんが)。



しかしこのポスターに描かれている「砂の女」の、この忘我の表情のなんと神々しく、美しいこと。

そこにさっきのバスで隣り合った女性の、やや鼻にかかった厚みのある声や、首をかしげるようにして、僕の目をまっすぐに見上げる視線が、いつの間にか重なってくるのです。

そう、見れば見るほどこのポスターの中にいる砂の女と、さっきの女性とが同じ人物のように思えてくるのです。

このドアの先には何が僕を待っているんだろう。
僕はなかなかその先に踏み込めずに、しばらくの間、その前に立ちすくんでいました。




「こんにちは。やっぱり来てくれたんですね」

突然後ろからそう声をかけられて、僕は一瞬心臓が止まるかと思うほどでした。
振り返らずとも、彼女が僕の後ろにいるのはすぐにわかりました。
もちろんあのちょっと鼻にかかった、厚みのある声のせいで。

「ここはとても限られた人たちだけのクラブなので、簡単には中に入れないのよ」

彼女はそう言って、古びたドアにはどう考えても不釣り合いな最新のセキュリティシステムのような機械に暗証番号を打ち込みました。
するとロックが解除されるような大げさな音があたりに響き、彼女は僕をドアの中へと導きました。

僕が薄暗い建物の中へ進もうとすると、彼女は待って、と小さく叫び、僕を後ろから羽交い絞めにするように抱きかかえました。

「この先には大きな穴があるのよ、そのまま進んだら、真っ逆さまよ」
そんなふうに彼女が僕の耳元でささやく声を、とうとう聞いてしまいました。
水で塗り固められた砂の銅像のように、その場で固まってしまった僕からゆっくりと躰を離しながら、彼女は言いました。
「ここから先は、私の言うとおりにしてください」



建物の中は、天井の高い広大な空間になっていました。
中には照明施設がなく、天井近くにあるいくつかの窓から天然の光が差し込んでいるだけなので、晴れた昼間でもやや薄暗い感じがしました。

次に目に入ってきたのは、巨大な砂場に掘られたような深く黒々とした穴でした。
その穴のずっと底の方に、半ば砂に埋もれ、今にも崩れ落ちそうな木造の家が1軒建っています。

あそこが「Kinema club dunes」の場所よ。
町の中に黙ってこんなに大きな穴を掘っちゃったので、あまりたくさんの人に言うわけにはいかないのよ。

そう言って彼女は穴の中へと降りる縄梯子を勝手にするすると下って行きました。
高いところが苦手な僕にとっては、こんなところから不安定な縄梯子を使って下に降りるなんてとんでもないことでしたが、梯子の途中から、やや首をかしげ、しかしまっすぐに彼女に見上げられると、意を決してあとに続かざるを得ませんでした。

ここは「砂の女」の世界を忠実に模した場所なの。
ところで、「砂の女」はご存知?
僕が穴の底まで下り終わると、彼女は僕の髪の毛や肩に降りかかっていた砂を手で軽く払いながらそう言いました。

名前は知っていたけど、小説を読んだことも、映画を観たこともない。
僕がそう答えると、彼女はゆっくり頷いて屋内に僕を誘い、映画の中のいろいろなシーンを写真にして飾ってある場所の前に立ちました。


大きな穴の底にある、「砂の女」の家。

砂の女1


女の家へと下りる、縄梯子。

砂の女2



こことそっくりだ。
僕がそう呟くと、彼女は首を振りながらおかしそうにクスクスと笑って、こう訂正しました。

違うわよ。ここが映画や小説の世界をそっくりまねたのよ。





都会から、砂丘に住む珍しい昆虫を探しに来た若い教師が、知り合った村人の好意で部落の民家に泊まることになった。
砂地の大きなくぼみにあるその家に、縄梯子を伝って下りてみると、そこには若い寡婦がひとり、住んでいるだけだった。
とどまることなく地上から砂が舞い散ってくるその家で、慣れない一晩を過ごし、朝、目覚めてみると、昨晩まであったはずの縄梯子がなく、地上に戻ることができなくなっている。

そして家の中では、女がただ顔に砂除けの手拭いをかけただけで、全身に何もまとわずに横たわって眠り込んでいる。

砂の女4


女の躰の上に、滑らかな曲線の形のままに降り積もる、砂。

砂の女3


女を起こし、縄梯子がない理由を聞く男。
しかし、女はそれに答えず、ただ謝るばかり。
女手一つで暮らすことが難しい、過酷な砂丘での生活のため、村人の仕業により、男はここに閉じ込められたのだった。

砂の女5



彼女からそこまでのあらずじを聞いた僕は、ふと気になって古びたドアの隙間から、外を見たのでした。
そこからでは角度が悪いのでしょうか、さっきまであったはずの縄梯子が見あたりません。
慌てて外に飛び出して、家の周りをぐるりと見回してみましたが、それはもう、どこにもありませんでした。

「今日はここに泊まっていきます?」

いつの間にか僕の後ろに迫っていた彼女が、僕の耳元で、あの、ちょっと鼻にかかったような厚みのある声でささやきました。


<さらにまたつづく>




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