春まだ遠い北海道たび/村上春樹のファーム編【北海道・仁宇布】
2015-04-23
前編 その1 津軽海峡冬景色編その2 函館の女(ひと)編
その3 ヤリキレナイ川編
ヤリキレナイ川がある、由仁から岩見沢まで戻り、乗り換えて旭川へ。
16時ちょっと前に旭川に着くと、駅前の気温は5℃。ここも霧のような細かい雨が降っています。
今回の北海道への旅は、村上春樹の小説「羊をめぐる冒険」に出てくる牧場のモデルと言われているファームの、一面の雪景色を見てみたい、ということがきっかけでしたが、どうやってそこに行くか、ということはあまり考えていませんでした。
ファームのサイトを見る限り、まだ一面の銀世界で、数十センチの積雪が残っているようです。
札幌や旭川では、もう雪はすっかり解けていますが、ファームのある美深町は旭川から北へ100キロ、日本の最北地にかなり近いところにあり、ファームはさらにそこから山の中へ20Kmほど行った仁宇布(にうぷ)ところにあるのです。
最北の山間地ならば確かにまだそんな感じなのかもしれません。
旭川から美深まではJRの宗谷本線で行けるのですが、そこから先の20キロは、オンデマンド(事前予約制)の路線バスが1日数本あるのみ。本当は名寄あたりでレンタカーを借りて行けばいいのですが、そんなに雪が残っているとなると、できればクルマには乗りたくないのが正直なところです。
オンデマンドの路線バスを事前に予約して(たぶん乗客はぼくひとりで)運行してもらうか、慣れない雪道をレンタカーで行くか、それともいっそやめてしまおうか、と迷っていたのですが、旭川に住んでいる知人にさりげなく聞いてみたところ、車で連れて行ってくれる、という思いがけない回答があったので、旭川に泊まって翌日に備えます。
しかしこんなGWのど真ん中に、なんでまたそんな遠くまで乗せて行ってくれるのか、と聞くと彼女は言いました。
村上春樹のことはあまり詳しく知らないけど「仁宇布(にうぷ)」なんて自分も全然知らなかった場所なので、なんだか冒険みたいでわくわくする。
今年のGWはずっと暇なので、出かける場所ができてよかった。
まだタイヤもスタッドレスだし、雪道ももちろん慣れているから大丈夫だ、と。
<5月4日>
翌朝9時に旭川を出発。
彼女はさすが地元民らしく、稚内へ向かう名寄国道(国道40号線)には進まず、裏道をどんどん走ります。
ピップエレキバンのCMで有名だった比布(ぴっぷ)や塩狩峠を通らずに、旭川から真北に進み鷹栖町から峠を越えていったん和寒へ。さらに農道のような道をズンズン進み士別でようやく40号線に合流します。
確かに途中ほとんど信号がないので、国道にくらべれば若干早いかもしれませんが、もともと北海道は一般道でも1時間に50キロや60キロは走れるので、さらにそれを上回るなんて、贅沢な裏道ですね。
名寄から美深までは無料の自動車専用道に入ります。美深のICで降りたらどこかで昼食をとろうと話していたのですが、美深の出口にはレストランどころかコンビニひとつありません。なんとなく想像はしていたのですが、やはり名寄で食べるべきだったかな、と後悔してもすでに遅し。
美深の町まで行けば食事処はあるのでしょうが、目的地とは数キロ逆方向に戻る形になるので、思い切って先に仁宇布まで行ってしまうことにします。
美深はJR宗谷線の特急も停車する町ではありますが、今は人口5千人も満たない、駅を中心とした半径1kmから外に出てしまうと、大平原以外は何もない、という北海道の典型的な小規模自治体です。
30年近く前まで、この美深から仁宇布まで、国鉄美幸線(びこうせん)という路線が走っていました。国鉄の赤字日本一の路線(100円の収入を得るのに3,859円の費用がかかっていたそうです)として知る人ぞ知る、有名な路線で、僕も名前を知っていました。
JRになる前に、当然のように廃止されてしまいましたが、今回これからクルマで通る道は、ほぼその美幸線に沿ったルートになります。
美深のICを降りたところが、一つ目の駅だった東美深駅に近いところでしょう。
道路沿いに稀に民家(農場)が現れる程度で、商店や食堂のようなものは見る限り皆無です。2つ目の駅だった辺渓(ぺんけ)まで4,5キロはそんな感じが続きます。雪はまだほとんど目立たず、日陰の路肩にかたまっている程度です。
辺渓(ぺんけ)の集落(といっても2,3軒)を過ぎると道路は深い森の中の丘陵地帯になり、人家は全く消えてなくなります。そして雪がみるみる増えていきます。
そんな景色が10キロ以上にわたって続きます。当然、昔も途中に駅などありませんでした。いくら北海道とはいえ、よくもこんなに人がいないところに鉄道を敷いたもんだな、と思います(昔はもう少しマシだったかもしれませんが)。
深い森を抜け、やや開けたところが仁宇布。旧美幸線の終点。
簡易郵便局と小中学校と民家が10~20軒くらい。人口は50人くらいの感じです。
目指すファームは仁宇布の集落からやや上りの農道を進んだ先にあるようです。

あたり一面は、本当にまだ銀世界でした。
丘陵の端っこにロッジふうの建物があり、そこから先は急な坂道となって山の中へと続いています。
ロッジはこのファームの観光用宿泊施設で、村上作品の朗読会などが行われるのもここらしいのですが、今日はまったく人の気配がありません。

『羊をめぐる冒険』に出てくる羊や鼠、あるいは不思議な女の子などは、みんなこの坂道の上の山奥にいるような気がしましたが、残念ながらこのクルマで行けるのはここまで。

僕も旅行中に読もうと思って持ってきた村上本の新刊を雪原に置いて記念撮影。

こうして今回の北海道たびの最大の目的を果たすことができたのでした。
帰り際に、旧国鉄美幸線の終点だった仁宇布駅の跡地に行ってみました。

ここには旧美幸線の線路跡を利用して「トロッコ王国」という名前の観光施設として整備され、往復10キロのトロッコ体験ができるようです。

4月の下旬から営業しているようで、GWなのでわずかながらお客さんも来ているようですがすが、屋根も覆いもない正方形の台車のような乗り物ゆえ、風を切って走るとまだ相当寒いのではないかと思いました。

たったこのためだけに旭川から往復で300キロ近くのドライブに付き合ってくれた彼女がつまらなくなかったか心配だったので、帰りのクルマの中でどうだった?と聞いてみると、彼女はちょっと不満そうにこう言いました。
「うーん、なんだか全然冒険できなかったのが残念。 見渡す限りの雪原で吹雪にあって、遭難しちゃうとか、なんだかすごい冒険ができると思ったのに・・・」
「遭難?遭難しちゃったら困るじゃない」と僕。
「吹雪の中、運よく小さな洞穴を見つけてそこに駆け込むの。それで二人で裸になって温め合うの。そうしているうちに羊たちがやってきて、ふわふわの羊毛で温めてくれるの。ねえ、それってなんだかすごく気持ちよさそうじゃない?」
やれやれ。
まるで村上作品に出てくる、ちょっと不思議な女の子みたいじゃないか。
<2013年5月4日訪問>
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